美術館でタイカレーを食べることの違和感 リクリット・ティラバーニャについて

2016/08/30

先日このブログで紹介した、韓国人アーティスト「イ・ブル」は、1997年にニューヨーク近代美術館(MOMA)で生魚を展示しました。

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「壮麗な輝き(Majestic Splendor)」(1997年) イ・ブル

壁面に沿って並べられた魚には、派手な装飾が施されています。この作品には、美しい人工的な装飾と、腐敗して醜い姿に変化していく生き物としての魚とを対比させるねらいがあったようです。しかし、それがあまりに強烈な異臭を放つものであったため、展覧会開幕直後にこの作品は撤去されてしまいました。

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ニューヨーク近代美術館に立ち込めるカレーの匂い

一方、リクリット・ティラバーニャ(Rirkrit Tiravanija)というタイのアーティストは、この出来事が起こる5年前に、同じ美術館内で、観客に無料でタイカレーを振る舞うパフォーマンスを行っています。
その際には、先のイ・ブルの作品と同様に、美術館には似つかわしくないニオイが立ち込めたことでしょう。しかし、腐敗臭とは違い、カレーのその美味しそうな匂いは、MOMAに喜んで受け入れられたようです。


1992年にMOMAで行われたティラバーニャのパフォーマンスの様子をご覧ください。

美術館の厳粛なムードの中で作品を鑑賞している際に、突然おいしそうな食べ物の匂いが立ち込めてきたら、観客はいったいどういう反応を示すのでしょうか。
おそらく大部分の観客が、気が散ってアートを鑑賞している場合ではなくなることでしょう。そして、匂いだけではなく、食事も振る舞われたとしたら、さらに混乱してしまうと思います。

なぜ、混乱するのか。それは、多くの人にとって、「アート」と「食事を含む日常生活」は切り離されているものだからです。アートが置かれている状況がそうしたものであるからこそ、このレアな食事体験は、重要な意味を持っています。この食事体験で感じる違和感こそが、「アート」と「日常生活」を隔てる距離感を各人が再認識するきっかけになるのです。そして、リクリット・ティラバーニャはこうした活動を通して、アートをごく普通の生活の中に引き寄せたいのだと思います。

リクリット・ティラバーニャの旅の記録

Rirkrit Tiravanija

さて、ギャラリーサイド2では、今、ティラヴァニャの展覧会が行われています。
オープニングパーティーでは、彼によって梅干しと焼き魚が用意されたそうです。しかし、常時食べ物が振る舞われるわけではありません。現在そのギャラリーでは、食べ物は用意されておらず、彼の活動の痕跡のみを展示する場となっています。

そこには軽ワゴン車が一台が止められており、その周辺には車から運び出したと思われる調味料や調理道具が散乱しています。その光景は、まるで、野外キャンプから戻った車の荷物を片づけている最中のようにも見えました。
この車はティラヴァニャの活動記念碑のようなものです。彼は以前、それに乗って北九州から横浜におよぶ長旅を決行しています。旅の途中で出会った人々に、ティラバーニャは食事を振る舞いました。彼と旅を伴にしたその車には、その旅のなかで人々と食事を共にした記憶が刻まれています。

しかしながら、今回の展示に私は物足りなさを感じました。それは、展示されているものが、単なる活動の記録でしかないからです。その記録からは、彼と食事を共にした人々の戸惑いや喜びなどの感情が感じられません。もし、彼らの肉声や映像などがあれば、よりリアリティを持って彼らの感情を感じられたかもしれません。コンセプトはとても興味深いのですが、その点を残念に思います。

(追記)

この記事を書いた翌日、GALLERY SIDE 2の方に伺ったお話しによると、今回のティラヴァニャの作品は、「食事を振る舞う」という側面からつくられたものではなく、「Untitled “Blind”」(1990年)と題された作品の系譜に分類されるであろうとのことでした。
この「Untitled “Blind”」という作品で、ティラヴァニャは、彼自身の丸一日の行動をカセットに録音し、それを封筒に入れて毎日画廊に送りました。画廊には、一日一通ずつ増えていく封筒が展示されたそうです。

また、今回の展覧会と同様に「車」が展示された作品の中には、料理とはまったく接点がないものがあるそうです。スイスのSupermarket展で展示された黄色い車は、ティラヴァニャがフランツ・アッカーマンと旅を共にした時のものだそうです。また、フィラデルフィア美術館に展示されたバンは、タイの美大生5人とのアメリカ横断の旅に使われものだそうです。

リクリット・ティラバーニャの作品の幅広さを知り、私はますます彼に興味を持ちました。大変勉強になりました。どうもありがとうございました。

画像引用元:GALLERY SIDE 2Majestic Splendor

リクリット・ティラヴァニャ「無題 2001/2012」
2012年2月10日(金)から4月20日(金)
GALLERY SIDE 2 にて

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