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「ミュージアムの思想」

投稿日:2010年6月19日 更新日:

私が初めてヨーロッパの美術館を訪れたのは、20歳の頃、大学の同級生との旅行の際でした。数日かけて廻ったルーブル美術館の収蔵品の多さ、スケールの大きさには驚きました。また、多くの美術館で、その場での模写が許されており、時には作品に触れることが出来るなど羨ましく思ったのを思い出します。
西欧における”ミュージアム”は、美術館・博物館はもとより、動物園・植物園・図書館・自然公園さらには少数民族保護区・特定動物の保護領域・世界遺産をも含む広域の概念を持っているようです。松宮秀治さんの著書「ミュージアムの思想」によると、西欧の”ミュージアム”と、訳語としての”美術館・博物館”は、”丸ごとの魚”(前者)と”その魚の切り身”(後者)ほどの違いがあるということです。20歳の時に出会った”丸ごとの魚”の一部から、その魚の全体像を、どれ程理解出来たか正直自信はありません。しかし少なくとも、単に切り身の魚から丸ごとの魚を想像する程の無茶なことではないように思います。

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松宮さんは、この本のほとんどを西欧のミュージアムの思想の成り立ちとその意味を説明することに費やしており、”ミュージアムとは全世界を西欧の「世界システム」に組み込んでしまおうとする西欧イデオロギーである。”として、非西欧圏が西欧圏と同様にこれを普遍的価値として無批判に受け入れていることの危険性を説いています。
ミュージアムは、西欧近代にその起源があり、その頃絶大な力を持っていた宗教的権威(キリスト教の権威)に代わって世俗的な政治的権威を創り出すためのイデオロギーとして成長してきたといいます。権威創出の手法は宗教側に学んだことから、ミュージアムは、近代の”新しい宗教”と表現されています。”新しい宗教”としてのミュージアムは、そのような歴史的背景から、他の宗教的価値を破壊する思想を持っていました。しかし、その支配を拡大し世界に対する普遍性を獲得するために、タブーの侵犯あるいは神聖冒涜と見なされる破壊という行為を隠蔽する必要がありました。そこで、今日のミュージアムのイメージとして馴染みのある「民主主義的公開性」「人類の知的進歩への貢献」や「文物の保護」等のイデオロギーが強調されることになったということです。
ではなぜ、日本の美術館・博物館と西欧のミュージアムは、先の例えのように切り身と丸ごとの魚ほどの差があるのでしょうか。松宮さんは、日本が天皇制という疑似宗教を持っており、ミュージアムの思想がそれに従属するかたちでしか定着しなかったからと説明しています。ミュージアムは、その成り立ちからして、伝統的な宗教権力を排除した上に成り立つ思想のようです。ですから、例えば完全な政教一致の文化圏であるイスラム世界も、同様の理由で思想が根付かないということになります。
松宮さんは最後に、”(日本のように)ミュージアムの思想の中途半端な受け入れ方を続けていれば、「ミュージアムの思想」の側からか、あるいは「伝統的な聖性」(国家宗教)側のいずれかから攻撃されることになるでであろう。”と書いています。そして中途半端な模倣や移入は、本家本元のそれよりももっと始末におえないものであると言っています。その始末におえない状況について書かれた部分を抜粋してみます。

中途半端な制度だけの外形的模倣は、「公開性」の原則の思想をねじ曲げ、「保護」を非公開と秘匿にすり替え、公共圏の成立を妨げ、政治や経済という他の社会の基礎にまで秘密主義の風潮を育ててしまうことになる。そこでは「公共」という概念は「公共のため」ではなく「おおやけ」というお上が恩寵を下賜するものの意味になる。したがってそこでは公共のミュージアムというものは、国民や人類の共有財産という本来の位置づけを失い、省庁間の権益の争いのなかで、一種の「私物化」されたものとなってしまう。さらにまた「権益」といううま味が減少すると、それはうち捨てておかれるか、「民間」事業とされる。

私が学生だった頃(1970年代?90年代)を思い出すと、非常に立派だけど、どこか空虚な美術館が続々と建ちました。空虚だと感じたのは、それらの美術館が公共事業におけるハコモノだったからだと思います。美術館はまさに、省庁間および地方自治体における権益争いの中で生まれた閉鎖的な空間でした。今日の一部の美術館では、美術館を単に美術鑑賞するための施設という側面に限らず、より広いコミュニケーションの場と捉えている様子も伺えます。しかしやはり、開かれた我々の美術館というよりは、上からの権威的な施設という閉鎖的な側面を未だ強く持っているように思います。

もしも日本がミュージアムの思想をより完全なかたちで移入していたら、美術館はもっと活気がある有意義な場だったのかもしれません。しかし、そうならなかったお陰で、日本人の多くは、西欧のように美術品に対して大層な意味を見い出さずに済んでいると私は思っています。(その代わり全く別の事に意味を見い出しているかもしれませんが。)それはそれで、良いことだと思います。
また、松宮さんの言うようにミュージアムの思想が全世界的に強大な力を持っているならば、逆にそれに染まりきらない日本(イスラム圏も)はスゴイと思います。しかしこのような在り方は、”ミュージアム圏”からすると、ある意味挑発的、あるいは単に蚊帳の外と見えるのかもしれません。
2003年に出版されたこの本の感想といっても今更なのかもしれませんが、多くの新鮮な視点を頂けたように思います。

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