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芸術否定論

投稿日:2010年6月27日 更新日:

「よく考えてみると、きわめて不思議なことといえるが、前近代世界にあれほど偏在していた「芸術否定論」が近代になると、なぜすっかり姿を消してしまったのか。なぜ今日ではだれもが正面切って、たとえば小説に対して「たかが小説にすぎないじゃないか」、あるいは絵に対して「たかだか絵にすぎないじゃないか」と公然とつっかかっていったりしなくなってしまったのか。またもっと大胆に「たかだか芸術じゃないか」とか「芸術がなんぼのもんじゃい」「芸術のどこが偉いというんじゃい」と芸術に対して挑戦的に否定論をぶちまける人がなぜいなくなってしまったのか。
「芸術」は今日ではすっかり裸の王様になってしまっている。「わたしは芸術のことはよくわからないのです」というのは普通に受け入れられる言葉だが、「芸術ってそんなに偉いものなのですか」とか「わたしは芸術というヤツが嫌いで、その言葉を聞くと虫唾が走るんです」というのはタブーに近い言葉というより、タブーそのものになっている。「私は右翼が嫌いです」「わたしは左翼が嫌いです」というのは、口にすることも許されるし、またよく耳にするが、なぜ、芸術に対する全否定論は聞いたこともなければ、読んだこともないのか。」
松宮秀治著 「芸術崇拝の思想」より

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いきなり冒頭から長い引用をしてしまいました。著者の松宮さんによると、前近代世界に偏在していた「芸術否定」の精神と思想は、近代以降現在に至るまでにすっかり姿を消してしまったとのことです。しかし私は、著者の見解に素直に頷くことが出来ません。この本が出版されたのは2008年9月ですが、あらゆるものが相対化される中で、当時も今も「芸術ってそんなに偉いものですか?」とか「芸術という言葉を聞くと虫唾が走る」と言う人はたくさんいるような気がします。ただ、「芸術」に何らかのかたちで関わりのある人にとっては、自らの否定にも繋がりかねない芸術否定論は一種のタブーになっているのかもしれません。
著者は、「芸術」否定論が公然と表明されない理由について、それが西欧の前近代における「神」の役割を果たしているからだと言っています。「神」を失った西欧近代国家は、政治的権威をつくる上で「芸術」を「神」のように祭り上げることを必要としました。そして現代においても芸術は「神」の座に鎮座し続けているということです。
前回のブログ(「ミュージアムの思想」も同じ著者による)で書いたように、芸術を保存・公開するための”ミュージアム”の思想を、”魚の切り身”(「ミュージアムの思想」を丸ごとの魚に例えるとすると)としてしか仕入れていない日本では、そもそも、「芸術」は「神」になりうるのでしょうか?

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