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「移動する聖地」としての絵画

投稿日:2010年7月9日 更新日:

椹木野衣さんの「反アート入門」には、閉塞感を抱えた現代アートが今後どうすればよいか、反アートとも言えるいくつかの方向性が提示されています。その中で私が一番印象に残ったのは、ギリシャのパルテノン神殿について書かれた部分です。

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パルテノン神殿といえば、法隆寺の真ん中が膨らんだ柱(エンタシス)を思い出す人は多いのではないでしょうか。日本の歴史教科書において法隆寺の建築の起源となっているそれは、西洋文明の源流とも捉えられている貴重な建造物です。
椹木さんは、実物のパルテノン神殿を前にした時、神殿そのものよりもそれが築かれた岩盤の方に気持ちが動かされたといいます。「神殿の基礎の壮大な枠組みの直下で、まるで大海原のように平然と広がる一枚岩を眺めているうち、それ〈神殿〉はあまりにか弱い、なにか一時しのぎの仮構のようにすら見えてしまった。」と感想を書いています。そして、岩が突き出た異様な丘を眺めれば本当は誰もが岩盤のほうに驚かなければならないはずだと言っています。もし本当にそうだとしたら、なぜ神殿の存在ばかりが強調されて伝えられているのでしょうか。パルテノン神殿を美術史というフィルターを通して見ると、神殿の偉大さばかりが拡大し、直下の岩の存在は見えなくなるものなのかもしれません。私も実物を見て確かめたくなりました。椹木さんはこの体験をもとに、パルテノン神殿は、神殿がその地につくられたから聖地になったのではなく、直下の岩盤の存在によって聖地であったがゆえに神殿がつくられたとの自説をたてました。

宗教学者の植島啓司さんによると、聖地とは古くから決められた位置に固定されており、一ミリも動くことはないそうです。エルサレムの神殿が巨大な一枚岩の上に築かれているように、その神的実体は巨大な石の塊であるがゆえに、動いたり動かしたりすることができないということだそうです。この植島さんの見解によれば、椹木さんの考えの通り、パルテノン神殿の神的実体も直下の岩盤にあると考えられます。
椹木さんは、この植島さんの考えをさらに飛躍させ、不動の聖地に対比させるかたちで「移動する聖地」という考えを設定しました。「移動する聖地」とは、分かりやすい例をあげると日本の三種の神器(玉・鏡・刀)やギリシャ正教のイコンなどを指しています。これらは、本来役目を果たす場所(神社や教会のなか)の外にも移すことが可能です。そして、移したからといって聖性が無くなるわけではありません。椹木さんは、パルテノン神殿はこの「移動する聖地」だといいます。神殿に聖性はありますが、あくまでも持ち運びが出来ない神的実体(=岩盤)の代用品のようなものであり、それが価値の実体ではないというのです。
さらに、この「移動する聖地」は絵画にも例えられます。教会の内壁から離され現在の移動可能な形態となった絵画にはぴったりの例えといえます。絵画は持ち運びが可能になったことで可能性が大きく広がりました。聖地から遠く離れた部屋の壁に自由に掛けることもできるし、売り買いもできるようになりました。しかし椹木さんは、先の神殿と同様にそれは聖性の単なる媒体でしかなく、神的な実体そのものとはまったく度量の異なるものだと強調しています。それは、この本の基底にある”芸術には芸術の分際がある。”ということに繋がっています。現代アートは、その本来の価値を自覚し、その役目を再度確認するべきなのかもしれません。

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