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村上隆のゲルニカ。「五百羅漢図」

投稿日:2012年2月21日 更新日:

五百羅漢図2

村上隆さんの大規模な回顧展「Murakami-Ego」が、2月9日から、カタールのドーハではじまりました。村上さんは、この展覧会で、全長100メートルにも及ぶ大作「五百羅漢図」を発表しています。会場を取り囲むように展示されているこの作品は、東日本大震災をテーマとしています。

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東浩紀さん、椹木野衣さんの感想

残念なことに、日本国内のマスコミは、今回の村上さんの展覧会をまったくと言っていいほど取り上げていません。そのため、この展覧会の様子を知るには、一部の美術関係者が個人的に発信する情報を頼りにするほかありません。

現地で実際に作品を鑑賞しTwitterでその情報を発信している評論家の東浩紀さんや椹木野衣さんは、今回の展覧会の一番の見どころでもある「五百羅漢図」を絶賛しています。

東さんは、

「村上さんの新作、幅100メートルの超大作の五百羅漢図はすばらしい作品でした。もはや現代美術の範疇に収まらない。むしろ宗教画に近い。ひとを救うための絵です。実際村上さん自身も、3.11のために描かれたと言っています。村上隆というアーティストのキャリアの転回点になると思います。」

と、これまでの村上さんの作品とはまったく異なる新作の誕生を喜んでいます。

また椹木さんは、

「僕は、今回の巨大な震災で、もう「未来」はないと失望している今の日本の若い人たちにこそ、この村上隆の五百羅漢図を見てほしいと思う。この絵は、鎮魂の絵であると同時に、中東という遠い場所で、国も知らぬまま灯された、明日を担う君たちにとっての、大きな希望の絵でもあるのだ。」

と賞賛しています。

お二人の感想に、私は正直とまどいました。なぜなら、その新作をまだ見ていなかった私にとって、東さんと椹木さんのコメントは、村上さんの作品に対する感想らしからぬものだったからです。

本物の「五百羅漢図」を見てみたい。でも、私は気軽にドーハに飛んでいける身ではありません。そこで今回は、ネットで収集した画像をもとに、記事を書きたいと思います。ネット上の画像だけで作品を語るな、そのように感じる方もいるかもしれません。しかしそれでも、実際は私以外にも多くの人がネット上で村上さんの作品を観賞するはずです。であるならば、その方たちと感想を共有するために、あえてネット上の画像をもとに感想を書くことも有意義なのではないか、そのように考えています。

五百羅漢図に描かれたノーテンキな修行僧

五百羅漢図

まず、今までの村上さんの作品と「五百羅漢図」の相違点について、私が感じたことを書きます。
明らかな違いは、ネット上の情報を見るだけでも、いくつか確認することが出来ます。これまで村上さんの作品に登場してきたお馴染みのキャラクター、DOB君やお花、カイカイキキなどがどこにも見当たらないこと。東日本大震災というずっしりと重みのあるテーマで描かれているということ。そして、作品自体がとてつもなく大きいこと。
けれども、これ以外に何か大きく変わったところがあるようには思えません。「五百羅漢図」には、いつもの無邪気なキャラクターの代わりに、五百羅漢、つまり修行僧が描かれています。「修行僧」という言葉からは、強い意志を持った能動的な人物がイメージされるため、こうした人物像は、一見、従来の村上さんのキャラクターの対極とも捉えられなくもありません。しかし「五百羅漢図」に描かれた修行僧は、私が見たところ、これまでの村上さんのキャラクターと同じように能天気のノータリン(失礼!)に見えます。

私はこれまで、村上さんのキャラクターを、戦争に負けた国の国民である日本人を揶揄するようなものと理解してきました。そして、意外なことに、今回描かれた修行僧からも、私はまったく同質のものを感じます。突然の大災害をきっかけに、DOB君やお花たちは、動揺して修行僧になった。しかし、その中身はDOB君やお花のままだった。私にはそう見えます。

村上隆の五百羅漢図は、未来の人たちに向けて作られた作品

では、村上さんはこの作品を、誰に向かって描いたのでしょうか。
村上さんはニコニコ動画の中で次のように語っています。

「(五百羅漢図を)今の日本の人たちに見てもらう必要はないと思っています。なぜなら、今、日本は混乱の真っただ中じゃないですか。そんな、絵なんか見ているヒマなんて無いですよ。」(2012年2月9日収録)

彼がこの作品を現在の日本人へのメッセージと捉えていないことは、それがカタールで発表されていることからも明らかです。もし彼が日本人に見てほしいと望んでいるのであれば、展覧会は日本で行われるべきでしょう。
さらに私がここで注目したいのは、先の動画で村上さんが話していた、社会におけるアートの影響力についての考えです。彼は、「絵を描くことは影響力の小さい仕事」であると言っています。とりわけ東日本大震災のような一国の有事においては、その力はそれほど大きくはない。そのような中でアートに何ができるのか。村上さんはピカソのゲルニカを例に挙げながら、「アートに出来ることがあるとすれば、それは未来の人間に向けて、この時代を語ることである」という趣旨の発言をしています。

「例えば、ピカソの「ゲルニカ」では、第二次大戦の頃にピカソが戦争に対してアゲインストしたらしいよという歴史を楽しむわけです。その時に歴史から学ぶことがあって、戦争はあかんちゃうのか、では、なんであの頃戦争起こっちゃったんだろう。その時ピカソは、どんなことを考えてこの作品をつくらなければならなかったのだろうか?そういった色々なものが未来に語る良いきっかけになるというのがわれわれの職業、芸術家の職業なんですよ。」

ピカソの代表作「ゲルニカ」には、スペインの内戦時に空爆を受けた町、ゲルニカの様子が描かれています。この町が壊滅的な被害を受けた1937年、ピカソはこの作品を、パリで行われた万国博覧会のスペイン館の壁画として描きました。ところがその後、この絵は故国スペインには返らず、ヨーロッパの戦火を避けるようにしてアメリカに渡ります。結局、「ゲルニカ」がスペインに返還されたのは、ピカソの制作から約40年以上も経過した後でした。ピカソは生前、「スペインに自由が戻るまでこの絵を戻すことはない」と主張していたそうです。ピカソもまた、「ゲルニカ」を、そのテーマに直接関係する人々というよりは、未来の多くの人たちに向けて描いたのかもしれません。
「アート」には、その解釈によって様々なカタチがあります。震災直後は、アートの力で、被災地の方々に一日も早く元気を取り戻して欲しいと、たくさんのアーティストが盛んに活動をしており、私は、彼らの活躍をとても頼もしく感じていました。彼らは、アートは、震災のような有事を脱却するための即戦力になりうると考えているようです。しかし村上さんの考えは違います。村上さんは、「歴史」を意識しながら、言い換えると未来の人間の視線を意識しながら作品を制作しているように思います。

高値で取引される作品は、後世に残る可能性が高い

このように考えると、村上さんが御自身の作品を積極的に売ろうとする理由のひとつが理解できます。つまり彼は、未来に自分の作品を残したいのだと思います。
アーティストの作品を後世に残すには、主に2つの要因が関係しています。ひとつは運。そしてもうひとつが、作品の市場価値、つまり社会が認める作品の価値です。運命をコントロールすることは出来ませんが、作品の価値を上げる努力は可能です。作品の価値は時代と共に変動するものだとは思いますが、大ざっぱに言えば、高値で売れるということは、つまり、捨てられる可能性が極めて低くなる、結果として後世に残る可能性が高くなるということだと思います。
村上さんは、「五百羅漢図」をカタールで売ることを想定して制作したそうです。先日、ある美術関係者からそう伺いました。村上さんの作品は、とても高価なので、日本では買い手がつかず、ほとんど海外でしか売れないそうです。ましてや、「五百羅漢図」のような非常に大きな作品は、海外のマーケットであっても売りにくい。けれども、富豪の多い中東のカタールでだったら売れるとの確信があったのでしょう。村上さんが、未来に作品を残すことの意義を真剣に考えているのであれば、その作品を高額で売りたいと思うのは当然のことだと思います。

五百羅漢図は、村上隆のゲルニカである

私は村上さんに「五百羅漢図は、現在の日本人へのメッセージである」などというセコイ台詞を吐いて欲しくありません。また、「人を救うために描いた」などという言葉を村上さんから聞きたいとも思いません。そんな陳腐な言葉を発するぐらいなら(発していませんが)、むしろ、「ピカソのゲルニカのような絵を私も世に残したいと思った」というようなコメントを悪びれず発する方が余程しっくりきます。

ところで私は、「五百羅漢図」が、ピカソの「ゲルニカ」のように、いつの日か日本に返ってくることを期待しています。そして、未来の日本人が、村上さんの作品をきっかけに、自国の歴史に思いを馳せることがあるとしたら、とても素晴らしいことだと思います。

関連記事:「村上隆の五百羅漢図」 スーパーフラットからの脱却
画像引用元:the Art InvestorHYPERBEAST
テキスト引用元:東浩紀さんTwitter椹木野衣さんTwitter、ニコニコ動画
【ニコニコ動画】村上隆 個展 「Murakami – Ego」 カタールより独占生中継!
【ニコニコ動画】闘争せよ!カタールから『日本・文化・未来』を考える

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