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ジャクソン・ポロックの絵と、家屋のペンキ塗りの深い(?)関係

投稿日:2012年4月4日 更新日:

sLavender Mist
「Lavender Mist」 ポロックが短い生涯の中で最も良質な作品を生み出した、1950年の傑作。
繊細な色彩の重なりが美しく、長時間眺めていても、まったく飽きることがない。

〇「アクション・ペインティング」という言葉の意味

 ジャクソン・ポロックが、絵の具を飛び散らせたり、流したりといった独自の手法で描いた絵を、「アクション・ペインティング」と呼ぶことがあります。この「アクション・ペインティング」という言葉は、1952年に、アメリカの美術評論家、ハロルド・ローゼンバーグによって生み出されました。ローゼンバーグは、その定義を次のように語っています。

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 ある時、アメリカのある種の画家達には、キャンヴァスが、「現実あるいは想像上の対象を、再生し分析し、あるいは表現する空間」というよりも、むしろ、「行為する場としての闘技場」に見えはじめた。キャンヴァスの上に起るべきものは、絵ではなく事件であった。

 英語の「action(アクション)」には、actと同様に、「行為」という意味があります。しかし、actが、「ある1つの行為」や「行為の結果」を指すのに対し、「action(アクション」は、おもに「行為のプロセス」を示すという違いがあります。
 ローゼンバーグは、「action(アクション)」という言葉を用いて、物質ではなく 「行為としての芸術」、また、結果ではなく 「過程としての芸術」を強調し、その後の芸術に大きな影響を及ぼしました。

 ところが、この1952年には、すでにポロックの全盛期は過ぎていました。そのため、ポロックが、このローゼンバーグの芸術の定義に大いに触発されたとは考えられません。
 「ジャクソン・ポロック」の著者、藤枝晃雄は、ポロックがもし「action(アクション)」という概念に関心を持ったことがあるとすれば、それはおそらく、「芸術作品が創造される過程」にあったのではないかと言っています。創造のメカニズムに対する興味は、ポロック独自の視点から生まれたわけではなく、この頃の時代の風潮でした。

〇ポロックの「アクション・ペインティング」の制作過程

 ポロックは、キャンバスをイーゼルに立てかけたり、また、パレットに絵具を出し、それを絵筆で直接キャンバスの上にのせるといった、従来の方法に則った絵の描き方をしませんでした。
 彼は、人がすっぽりと入ってしまうほどの大きなキャンバスを床に敷きつめ、その中に入り込み、棒やコテ、ナイフなど、当時はおよそ絵を描く道具とは考えられていなかったものを使い、全身を大きく動かしながら制作しました。 

 ポロックの制作時の様子は、写真家のハンス・ネイムスが撮影した映像から、今でも伺い知ることができます。


「ジャクソン・ポロック51」(1951年) 
監督:ハンス・ネイマス(Hans Namuth)/ポール・ファルケンバーグ(Paul Falkenberg)
音楽:モートン・フェルドマン(Morton Feldman)

 この映像を撮影したネイムスは、ポロックの制作現場に遭遇し、次のような興味深いポロックの姿を言葉に残しました。

 大きな納屋は作品でいっぱいで、ドリッピングしたばかりの濡れたカンヴァスが床全面をおおっていました。・・・完全な静寂。・・・ポロックは作品を見つめていまいした。そしておもむろに、彼は絵具の缶と絵筆を手に取ってカンヴァスの周りを歩きはじめたんです。・・・彼の動きは最初はゆっくりでしたが、しだいに速くなり、カンヴァスに黒、白、赤褐色の絵具を撒き散らすときには、あたかも舞踏のような動きになりました。私の撮影は、彼が描いているかぎりつづいていたのですが、それはおそらく30分ほどだったと思います。その間ずっと、ポロックは中断することはありませんでした。このレヴェルで体を駆使する運動を、人はいかほど持続できるものでしょうか。最後に彼は、「ここまでだ」と言いました。

 「舞踏のような」とは、面白い例えです。ポロックが世間から認められるきっかけとなった「Summer Time (サマータイム)No.9A」は、まさにそのような彼の身体の動きが生み出した作品です。ポロックは、この作品が雑誌「ライフ」に掲載されたことを機に知名度を上げ、その後、作品のみならず彼個人の姿までも、広く世に晒すことになりました。

sSummer Time
「Summer Time (サマータイム)No.9A」

 ポロックのアクションは、当時、多くの人の注目を集めるのに十分な奇抜さを持っていました。ポロックに何かが憑依してしまった。観衆には、そのようにも見えたかもしれません。
 そして、そうであったがゆえにと言うべきか、ポロックがアルコール依存症を患っていることも作用してのことなのか、彼が名を上げた先には、必ずしも良き理解者ばかりがいたわけではありませんでした。「大酒のみの幻覚症状が作品を生み出した」といった噂が広まったこともあり、「ポロックの作品は混沌そのものでしかない」などと解説されたこともしばしばだったそうです。
 しかし、ポロックはこれらの反応に、「私は、絵の具の流れをコントロールできる。そこに偶然はない。」と反論しています。
 このひとことを、より詳細に説明したようなポロックの他の発言も見てみましょう。彼は、制作時の状況について、次のような印象深い言葉を残しています。

 絵の中にいる時、私は自分が何をしているのか気づいていない。一種の「馴染む」時期を経て初めて、自分がしてきたことを理解する。私は変更をしたり、イメージを破壊したりすることを恐れない。なぜなら、絵画はそれ自身の生命を持っているからだ。私はそれを全うさせてやろうとする。結果がめちゃくちゃになるのは、絵とのコンタクトを失った時だけである。そうでなければ、純粋な調和、楽々としたやり取りがあり、絵はうまくゆく。

 このポロックの言葉は、比類のない彼自身の経験から発せられたものであり、それを私たちが十分に理解するのはとても難しいと言えるでしょう。
 そこで、ポロックが作品の制作過程をどのように捉えていたのか、彼に大きな影響を及ぼしたと思われる人の言葉から考えてみたいと思います。

sjackson pollock

〇ポロックは、芸術作品がつくられる過程をどのように捉えていたのか?

 ポロックは、画家のジョン・D・グレアム(John D. Graham :1886?1961年)と、心理学者のカール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung:1875‐1961年)の芸術観に大きな影響を受けたと言われています。グ
レアムは、ユングの研究に深い共感を示していたと言われ、芸術作品の創造過程についての彼らの考えには関連する部分が多く見受けられます。

 グレアムが1937年に発表した論文「原始美術とピカソ」は、ポロックにとって1つの大きな啓示となりました。
 その論文に、ポロックが興味を持ったのは、それがピカソについて論じられたものであったことと無関係ではないでしょう。当時ピカソは、新しい表現を目指す芸術家にとって、前衛の象徴のような存在であり、憧れの的でした。ポロックも同様に、情熱的な眼差しでピカソを捉えていたようです。
 この論文の中でグレアムは、原始的な部族の表現と、ピカソなどの西欧の芸術作品を例にあげ、人間の表現に含まれるイメージの中には普遍的な関係性があることを示しています。
 その普遍的なイメージは、ユングの言う「元型」を表わしています。

 ユングの「元型」とは、様々な人間の表現の中に、時代を問わず共通して内在されている記号のようなものです。ユングは、芸術作品が「元型の無意識の躍動」をもとに形づくられると考えました。
 この世界観においては、芸術家とは、単に「元型」と芸術作品とをつなぐ取り次ぐ役に過ぎません。作品は、芸術家の意志や技術を示し、自己主張する場ではないのです。芸術家の能力は、作品(となるもの)にあらかじめ内在されている法則のようなものに従って発揮されるものなのです。

 さて、グレアムは、このユングが言っている「元型と芸術作品とをつなぐ媒体としての画家」の役割が、どのように実践されるべきか具体的な例をあげて分かりやすく示しています。

 グレアムによれば、優れた画家の制作過程とは、「家屋のペンキ塗り」のようでなくてはなりません。絵描きの理想の姿は、「ペンキ塗り」であると言っているのです。
 これは、画家にとって大変ショッキングな発言のように思えます。なぜなら、「ペンキ塗り」は、画家が持つべき発想力や技術力を持ち合わせてはいない下等な存在に捉えられがちだからです。しかし、そのような能力を持っているがゆえに、かえって画家には、「ペンキ塗り」に遠く及ばないことがあります。それは、何も考えずにただただ無心でそれをすることです。
 グレアムは、制作の主体となる芸術家によって、超越的な無心状態で描かれた作品は、それが完成した瞬間、あたかも「ひとりでに描かれ、うまれてきたかのように思われる」ものであり、優れた芸術作品とは、このようなものを指すと説明しています。

 グレアムがユングと共有していたこのような芸術観に、ポロックは強い共感を抱いていました。このことからは、ポロックが、個人という枠を超えたところに存在する、何か普遍的な法則のようなものを捉えようとしていたことが分かります。彼は、この世の核になるようなものを、作品の中に注意深く引き寄せるべくキャンヴァスに対していたのだと思います。
 先のポロックの言葉、「絵の中にいる時、私は自分が何をしているのか気づいていない。一種の「馴染む」時期を経て初めて、自分がしてきたことを理解する。」からは、そのようにキャンヴァスに向かった結果として、「ペンキ塗り」に例えられたような、画家にとっての超越的な無心の境地に入っていた彼の姿が見えてくるように思います。

参考文献:「ジャクソン・ポロック」 藤枝晃雄 著
       「ジャクソン・ポロックとリー・クライズナー」 
        イネス・ジャネット・エンゲルマン(Ines Janet Engelmann) 著
       「美の20世紀15 ポロック」 ドナルド・ウィガル(Donald Wigal) 著
参考資料:「ポロック 2人だけのアトリエ」 エド・ハリス(Ed Harris) 監督・制作
画像引用元:ARTINTHEPICTURE.COM National Gallery of Art 
        WORD PRESS.COM

関連記事: 「ジャクソン・ポロックのドリッピングを科学する」

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