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デモの記録映像がアートになる時 アハマド・バシオーニ(Ahmed Basiony)の作品

投稿日:2012年9月18日 更新日:

s-30 days of running in the place
「30 Days of Running in the Place」  Ahmed Basiony(2010)
 
 森美術館で開催されている「アラブ・エクスプレス展」には、昨年1月のエジプト革命で凶弾に倒れた、ある一人のアーティストの作品が展示されています。
 アーティストの名は、アハマド・バシオーニ(Ahmed Basiony:1978-2011)
 彼は、2011年1月25日、生まれ故郷カイロのタハリール広場でデモを撮影している最中に帰らぬ人となりました。

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映像作品 「30日間、同じ場所で走り続けて」

 森美術館に展示されている彼の作品は、『30日間、同じ場所で走り続けて(30 Days of Running in the Place)』 と題された記録映像です。
 この作品には、バシオーニが、屋外に設置された透明な部屋の中で行ったパフォーマンスが記録されています。

 彼は、1日に1時間、観客に姿を晒しながら、その密閉された部屋の内部を走るという行為を30日間続けました。彼の身体は透明のビニールで覆われ、いくつものセンサーが取り付けられました。このセンサーを通じて、走行中の発汗量や歩数が、部屋の奥に設置されたスクリーンにリアルタイムで映像化されます。
 彼の身体の状態がスクリーン上で視覚化されるというパフォーマンスです。

ベネチアビエンナーレに出展された2つの映像作品

 ところで、森美術館に展示されているこの作品は、昨年のベネチアビエンナーレにも出品されました。
 その際には、この作品以外にもバシオーニの別の映像作品が1点展示されたのですが、それら2つの映像の組み合わせが、観客に強烈なインパクトを与え、たいへん話題になったそうです。
 異なる2つの作品は、あたかも1つのインスタレーション作品のように並べて展示されていました。

 観客の関心を集めた彼のもう1つの作品、それは、エジプト革命の際に起こったデモを撮影した映像です。


(ベネチアビアンナーレ2011・エジプト館の様子。壁に設置された5つの大きなモニターが、バシオーニの2つの作品を交互に映し出す。緑色の映像がデモの様子を撮影したもの。)

 彼は生前、ベネチアビアンナーレの故国エジプトの代表に選出されました。残念なことに、ベネチアビアンナーレが開幕したときには既に亡くなっていましたが、亡くなる3日前に自身の手で撮影したそのデモの映像は、友人のアーティスト、そしてキュレーターのアイデアによって展示に加えられました。

デモを撮影した、ただそれだけの映像はアートになりうるか?

 さて、そうしてデモのビデオはバショーニの作品となったのですが、撮りっぱなしのその映像は、デモを撮影したという以外、作家によってどのような解釈も与えられていません。
 そういったものを、アートと捉えることはできるのでしょうか。

 英フィナンシャル・タイムス紙は、「A spring in their step」と題された記事の中で、「デモを撮影した、ただそれだけの映像は、アートであるか否か」に言及しています。
 記者は、「アートというには、あまりにインフォーマルだ。それをアートとは認めない評論家もいるだろう。しかし、私はそうは思わない。」と記しています。

 この記者は、飾り気のない、無骨な2つの作品の組み合わせがとても興味深いと感想を述べています。そして、デモの映像に映し出された群衆の、情熱にみちた満面の笑みを眺めながら、ふと、アメリカの美術家、ロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenberg)の言葉を思い出したそうです。
 それは、『私は、芸術と生活のはざまで制作をしてきた。(I worked in the gap between art and life)』というものです。

 ラウシェンバーグは、自身の創造の目的について、「芸術作品をつくることではなく、芸術と生活の橋渡しをすることだ。・・芸術も生活も作ることはできない。われわれは、その間の、定義しようのない空隙で仕事をしなければならない。」という言葉を残しています。

 デモを撮影した映像を、バショーニ自身が即作品と考えていたかどうかは分かりません。ただ、先の記者が言うように、バシオーニの行為によって生み出された2つの映像からは、彼が、「芸術をつくる」といった狭義な考えを超えて、人生という捉え難いフィールドで、懸命に奮闘しならが生きてきたことが感じられるのではないかと私は思います。

参考資料
「A spring in their step」 Financial Times June 3,2011
「Egypt’s Representative to Venice Biennale Was Killed in Tahrir Square」 HYPERALLERGIC April 7, 2011

画像引用元
Art and Electronic Media

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