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レバノン内戦の傷跡。火であぶった観光写真 by ジョアナ・ハッジトーマス&ハリール・ジョレイジュ(Joana Hadjithomas and Khalil Joreige)

投稿日:2012年10月14日 更新日:

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「War Postcards」(Wonder Beirut project) Joana Hadjithomas and Khalil joreige

 ラックに行儀よく並べられた絵はがき。旅先などでよく見かける光景ですね。でも、これらは土産物屋に陳列されているものではありません。実は、美術館に展示されている作品なんです。

 この作品は、レバノン出身の2人組のアーティスト、ジョアナ・ハッジトマス&ハリール・ジョレイジュ(Joana Hadjithomas and Khalil joreige)の手によるものです。

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 ラックには、次のようなポストカードが置かれています。

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 風景写真のようですが、画像が大きく破損しています。歪んだ建物、そして金属が溶解したような色彩がとても印象的です。まるで大火災に見舞われた都市のようにも見えます。

 作家の説明によると、これらの写真は彼ら自身が撮影したものではありません。アブドゥッラー・ファラハというレバノンの写真家によるものです。
 写真家アブドゥッラー・ファラハとは、次のような人物だそうです。

写真家、アブドゥッラー・ファラハ

 1968年、ファラハがまだ16歳の時、彼はレバノン観光局からの依頼を受けて、絵はがき用の写真を撮影することになりました。
 そして、彼は、その大役を見事に果たしました。異国情緒あふれる海沿いのリゾート地の魅力を巧みに表現し、首都ベイルートを観光地として活気づけることに貢献したのです。

 ところがそれから7年後の1975年、レバノンは内戦に突入してしまいます。ファラハは、他の多くのレバノン人と同様に、自宅や避難所に閉じ込められる生活を余儀なくされました。
 自由に外出できない生活が続く中、それでも、彼は、表現することをやめませんでした。ベイルートの風景を収めたネガフィルムを題材にして夜中にこっそりと作品を作り始めたのです。
 彼は、自分が過去に撮影した場所が戦争によって破壊される度に、ネガに写ったその部分を燃やしていきました。ファラハは、このようにして、戦争によって変わり果ててしまったベイルートを忠実に再現し直したのです。

 ファラハがこのようにして燃やしたネガフィルムは、その後1990年に、ハッジトマスらによって発見されました。ファラハのフィルムは、彼らの手によってプリントされたのです。  
 ハッジトマスらによると、冒頭の絵はがきは、こうした過程を経てつくられたそうです。この話からは、ファラハの表現者としての決意のようなものを感じます。

内戦後のベイルート

 でも、この話、全部つくり話だそうです。ファラハなんていう人物は存在せず、ハッジトマスらがこの作品を制作するにあたって創作した架空の写真家なのです。私も最初に知った時には驚きました。

 なぜ、ハッジトマスらは、写真家アブドゥッラー・ファラハを創作したのか。そこには、やはりレバノンにおける内戦の傷跡が大きく影響しています。

 レバノンの首都ベイルートは、第2次大戦が終結した後の一時期、「中東のパリ」と呼ばれるほど華やかで美しい街として多くの人に愛されていました。しかし、75年に始まった内戦によって、街は悲惨なまでに破壊されてしまったのです。
 ですから、「中東のパリ」と呼ばれていた頃と現在とでは、ベイルートの街並みは異なります。にもかかわらず、現在、ベイルートで販売されている一部の絵はがきには、往年の風景が映しだされているそうです。まるで、内戦などなかったかのように。

 そうした絵はがきについて、ハッジトマスらは「戦争の記憶を喪失してしまった社会が映し出されている」と言っています。

 内戦。レバノン人にとって、それが忌まわしい記憶であることは容易に想像できます。しかし、ハッジトマスらの作品からはそれを封印するのではなく、正面から向き合おうとする覚悟のようなものを感じます。そのために、彼らは、ファラハという架空の人物を創作したのだと思います。戦争という異常事態においてもなお、自身のリアリティーを「いま」に求め続けたファラハ。彼は過去ではなく現在に生きています。そうしたファラハの姿に、ハッジトマスらは、アーティストとして、そしてレバノン人として憧れを抱いているのかもしれません。

※ご紹介した作品は、現在、森美術館で開催されている「アラブ・エクスプレス展」で鑑賞できます。

参考サイト:
Joana Hadjithomas and Khalil Joreige
We love photographer Abdallah Farah. Only problem is, he doesn’t really exist. Joana Hadjithomas and Khalil Joreige talk fact and fiction.
Wonder Beirut
Transmediale exhibition
Abdallah Farah

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