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戦争をピンク色に塗り替える。暴力を吹き飛ばす脳天気な世界 by ゼーナ・エル・ハリール(Zena el Khalil)

投稿日:2012年10月20日 更新日:

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「Xanadu, Your Neon Lights Will Shine」 Zena el Khalil(2010)

 「暴力」や「恐怖」、「絶望」。とても嫌な言葉です。これらの言葉を色彩で表現するとしたら、暗く沈んだ色を多くの人が思い浮かべるのではないでしょうか。黒やグレーに覆われた領域。もしかすると、どぎつい赤も所々に散りばめられているかも知れません。いずれにしろ、見る者の心を蝕む暗鬱な世界です。
 でも、もしその場所がピンク色で彩られたとしたら、世界は一変します。先ほどまでとは打って変わって、悩んでいるのがバカらしくなるような、脳天気な世界がそこには広がっています。

 ピンクを基調とした冒頭の作品は、レバノン出身の女性アーティスト、ゼーナ・エル・ハリール(1976年?)の手によるものです。男たちが楽しそうに笛を吹いているこの作品は、実は、戦争をテーマとして制作されたものなのです。
 

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イスラエル軍がばら撒いたビラ

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作品のもとになったビラ (New Works 2010より引用)

 冒頭の作品は、戦時中にばら撒かれたビラをもとにつくられています。
 エル・ハリールによると、このビラは、2006年に起ったイスラエルとの戦争(レバノン侵攻)の際に、イスラエル軍が首都ベイルート上空から散布したものです。

 この風刺画に登場する3名の男性は、左から、シリア大統領バッシャール・アル=アサド、イスラム主義運動組織ハマースの指導者ハーリド・マシュアル、イラン大統領マフムード・アフマディーネジャードです。
 そして中央には、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズブッラーの指導者ハサン・ナスルッラーフが、彼らに踊らされている蛇として風刺的に描かれています。
 エル・ハリールの作品は、このビラの構図を模したものと言えるでしょう。

 イスラエル軍の空爆はレバノン全土におよびました。エル・ハリールが住むベイルートも例外ではありません。空爆により破壊されていく街。死と隣合わせであることに恐怖を感じないわけがありません。しかし、彼女は、空爆の中、初めてこのビラを見た時、とても惹きつけられたそうです。そして、彼女は、それを拾い集めました。「ビラには毒が塗られているかもしれない」と、知人に警告されたそうですが、それでもこの行為を止められなかったと言います。

 エル・ハリールは、なぜ、これほどまでに、このビラに興味を持ったのでしょうか。彼女によれば、それは、ビラがピンク色をしていたからです。暴力とピンク、この似つかわしくない組み合わせが、彼女のインスピレーションを刺激したのです。

ピンク色に彩られた平和な世界

 彼女の作品をもう一度ご覧ください。

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 この作品のもとになったビラは、蛇になぞらえたレバノンの指導者を揶揄するものでした。しかし、ピンクを基調とした、花飾りやビーズが散りばめられた明るい色調の中にそれを描き直すと、3名と1匹は、和気あいあいと戯れているように見えてきます。

 彼女は、次のように語っています。 

 ビラを描き直すことは、私にとって、大切な癒しなのです。
 新しい物語のなかで、登場人物には、新たな役割が与えられます。暴力や恐れ、絶望に支配された世界が、愛や音楽に包まれた平穏な世界に生まれ変わるのです。

 「癒し」。エル・ハリールは強く癒しを求めています。彼女の作品は、明るくポジティブなイメージを持っていますが、実はそれは、彼女が置かれた厳しい境遇の裏返しなのかもしれません。

 彼女が住むレバノンは、世界で最も情勢が不安定な地域の1つです。そこでは常に、民族間の紛争の火だねがくすぶっています。ちょうど昨日(2012年10月19日)も、首都ベイルートで大規模な爆破テロが発生し、2人が死亡しています。

 エル・ハリールは、「暴力は暴力を生む。私の武器は愛とユーモアだ。」と言います。彼女が世界をピンク色で塗り替えるのは、暴力の連鎖を断ち切るための、彼女の戦いなのです。

※ご紹介した作品は、現在、森美術館で開催されている「アラブ・エクスプレス展」で鑑賞できます。

参考サイト:
An artist of Beirut: Zena el Khalil   Arab Review
Ou Ali Mama3ou Khabar
Beirut, I love you: Fellows Friday with Zena el Khalil   TED Blog
Things Are Happening in Hamra   The Newyork Times

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