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翡翠色の瞳に託したイラク人の誇り by ハリーム・アル・カリーム(Halim Al Karim)

投稿日:2012年10月27日 更新日:

Halim Al Karim

今回紹介する作品は、是非、大きなサイズでご覧いただきたい作品です。flickrに写真がアップされているので、まずは下のリンク先をご覧ください。

「アラブ・エクスプレス展」展示風景 by Mori Art Museum

不自然なほど際立って強調された目。口をテープのようなもので塞がれた女性たち。ぼやけた輪郭の中に、目だけが、不気味なほどに浮き上がっています。
鑑賞していて心地のよい作品ではありません。臭いものにフタをしたくなるような、そんな作品です。翡翠色の瞳は赤く充血し、強く何かを訴えかけています。彼女たちが何を伝えたいのかは分かりません。でも、それはきっと、彼女たちの生き死にかかわるような、とても重大なことのようにも思えます。

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この作品は、ハリーム・アル・カリーム(Halim Al Karim)というアーティストの「都会の目撃者(Urban Witness )」と題されたシリーズの中の1作です。イラク出身の彼は、次のように言っています。

イラクのアーティストであることには、大きな責任が伴なう。
私たちの痛みを世界に伝えるために、はっきりとしたヴィジョン、強い覚悟、そして時間をかけることを厭わない粘り強さが必要だ。

自身がイラク人として感じている「痛み」を伝えたい。私が冒頭の作品を瞬間的に拒んだのは、この「痛み」を感じたからだと思います。

アル・カリームが感じた「痛み」。そこには故国イラクでの戦争体験が大きく影を落としているようです。

アル・カリームの戦争体験

アル・カリームは、1991年の湾岸戦争の際、イラク軍に徴兵されました。恐ろしく孤独で、悲惨な体験だった。当時を振り返って、彼はそう語っています。そして彼は、意を決して、そこからの脱走を図ります。

逃げ込んだのはイラクの砂漠地帯。彼は岩穴に身を隠しました。脱走兵の彼が、十分な食料を持っていたとは考えられません。それでも彼は、生き延びました。それは、砂漠で暮らす遊牧民族の女性により偶然に発見されたからです。彼女は、毎日、水と食料を運んでくれました。そしてその度に、戦争で心に傷を負った彼に、ジプシーの文化や精神性を話して聞かせたそうです。脱走兵の男と砂漠の民の女、なんだか映画みたいな話ですね。

岩穴に籠った当初、彼は、戦争の残虐な記憶に苛まれていました。しかし、この女性の話が徐々に彼の心を癒していきました。戦争で受けた心の傷、そしてその後の女性との出会いによる精神の回復が、現在の彼の思考、そして作品の中核をなすようになります。

瞳に託したイラク人の誇り

Halim Al Karim

冒頭で紹介したこの作品は、アル・カリームによると、イラク人の姿を隠喩的に表しているそうです。彼は、次のようなことを言っています。

この作品は、理不尽な抑圧のなかでの、自己防衛のための沈黙、そしてそれと相反して湧きあがる、抑圧にあらがう精神を表現している。それは、多くのイラク人の思考そのものである。
眼前で振るわれる暴力。そのことについて言葉で語ることはできない。しかし、それを見つめる瞳、抑圧に屈しないその瞳には、美しい精神性が宿っている。

ぼやけた輪郭と固く閉ざされた口、それらは、暴力から逃れるための防衛手段なのでしょう。空気のような希薄な存在。しかし、それはあくまでも表面的な話です。白い霧のような皮膚の下には、こちらを射抜くような瞳が隠されています。
アル・カリームは、イラク人としての誇りをこの瞳に託しているのだと思います。

※ご紹介した作品は、現在森美術館で開催中の「アラブ・エクスプレス展」で鑑賞できます。

参考サイト:
Halim AlKarim: Photographic Abstraction and the Lag Effects of Conflict in Iraq
Making a Statement Through Art- Halim Al Karim
Halim Al Karim

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