「睡蓮」によって大装飾空間をつくり出す。
晩年のモネのそうした構想をもとにつくられたのが、地中美術館のクロード・モネ室です。
先日私はその場所を訪れたのですが、モネの絵を見たというよりも、モネの一室を体感したという言い方がふさわしいと思います。部屋全体が作品であるかのような心地よい緊張感に包まれていました。
クロード・モネの構想
地中美術館に創りだされた、凛とした空間。
いったいモネは、どのような構想を抱いていたのでしょうか。
調べてみると、それは次のようなものだったようです。
晩年のクロード・モネの構想
- 「睡蓮」の絵だけを展示する。
- 楕円形の部屋を囲むようにして「睡蓮」を展示し、途切れることなく続く空間を表現する。
- 自然光の下で絵が鑑賞できるようにする。
- 絵以外は白で統一する。
- 絵と鑑賞者との間に遮るものは一切置かない。
興味深いことに、地中美術館のクロード・モネ室では、構想の2番目と5番目が完全には取り入れられていません。
館内が撮影禁止だったので、写真を載せられないのがとても残念なのですが、地中美術館の部屋は楕円形ではなく、四角い部屋の角が少しとれているような形状をしています。
また、絵と鑑賞者の間にはガラスケースが存在しています。
ちなみに、こちらのリンクから地中美術館のクロード・モネ室の様子を見ることができます。
オランジュリー美術館のモネ室
ここで、もうひとつのモネ室、パリのオランジュリー美術館と比較してみると、その違いが分かります。
上の画像は、オランジュリー美術館のモネ室を写したものです。
オランジュリー美術館の壁面は柔らかいカーブがかかっており、部屋の形状が楕円形であることが分かりますね。
また、絵はむき出しの状態で展示されています。
こうしてみると、オランジュリー美術館のモネ室は、モネの構想をより忠実に再現しているように見えます。
地中美術館のモネ室
では、なぜ、地中美術館のモネ室はある種の独自性を出しているのでしょうか。
あくまで私の想像ですが、次のような理由ではないかと思います。
部屋の形状について
部屋の形状が楕円形でない理由は、作品の大きさや形状によるものではないかと思います。
オランジュリー美術館の「睡蓮」とは違い、地中美術館の「睡蓮」には大きさや形状にばらつきがあります。これらを壁の境がない空間に展示しても、連続した絵柄にも見えないし、かえってオランジュリー美術館と比較した時に物足りなさが残るように思います。
設計者である安藤忠雄さんは、あえて四角い空間をつくり地中美術館のオリジナリティーを出そうとしたのかもしれません。
私が見る限り、その試みは大成功しています。
絵の配置や空間の広さ、また採光方法など、さまざまな工夫をすることで、見事に「睡蓮」の広がる空間をつくりあげています。
ガラスケースについて
地中美術館の「睡蓮」はガラスケースで覆われていますが、私は、このガラスケースは絵と鑑賞者のコミュニケーションを阻害していないように思いました。
オランジュリー美術館の天井は中央部が広い範囲でガラス張りになっているため、この空間で絵の前面にガラスがあると、光が反射しやすいように思います。
一方で、地中美術館は、天井中央部の自然光が遮断されており、絵画の設置されている壁面に近い天井部分からのみ採光しているので、ガラスに光が反射しにくくなっています。
ガラスケースで絵を覆うことが先にあって採光方法があとに考えられたのか、あるいは、全く別の事情があるのかは分かりませんが、ガラスケースの存在自体は全く問題がないように思いました。
地中美術館のクロード・モネ室は、超オススメです。
地中美術館のモネ室は、光を上手に取り入れた、とても素晴らしい空間でした。
私が訪れたのは夕方だったので、室内はかなり薄暗かったのですが、逆にその薄暗さによって空間の厚みが増しているように感じました。
一般的な感覚では絵を鑑賞出来る明るさではありませんでしたが、そのことでむしろ、美術館って本当はこんなに自由な空間なんだと感じることができて、嬉しくなりました。
地中美術館、素晴らしいですよ。オススメです。